記事紹介【大亜細亜・第三号】巻頭言 朝鮮危機に際して、 アメリカの「人道」主義を排す 折本龍則

2017年06月12日

トランプ政権発足から百日。目下アメリカは、イスラム国の掃討作戦を続けているが、そもそもイスラム国を生み出したのはアメリカ自身であることを忘れてはならない。周知の様に、イスラム国は、アメリカによって打
倒されたサダム・フセイン体制の残党が母体になったとされる。アメリカはサダム・フセインがアルカイダの指導者であるビンラディンを匿っているという言い掛かりを付けてイラクを攻撃したが、そもそもアルカイダを生み出したのもアメリカ自身である。ソ連のアフガン侵攻に対抗してアメリカがビンラディンに武器や資金を援助したことがアルカイダの台頭をもたらしたとされる。

イスラム国の掃討にはロシアやイランとの 協力が不可欠であるが、アメリカはアサド政権がサリンを使用したことへの「人道的」な反発からシリアを空爆し、アサド政権を支援するロシアとの関係が険悪化した。またイラ
ンに対しても、オバマ政権時代に結ばれた核合意を再検討し、経済制裁の復活を示唆している。

どれも場当たり的で戦略目標が散漫であり、一体何をしたいのか分からない。それは対北朝鮮外交についても同様だ。アメリカは北朝鮮へ圧力を強め、武力行使をも辞さない強硬姿勢で核開発の放棄を要求しているが、むしろ北朝鮮はシリア問題で米露関係が悪化したのを良いことにロシアとの経済連携を強化し、万景峰号がロシア極東と北朝鮮を結ぶ定期船として就航することが決まった。これに対して、トランプ政権は、中国に対北制裁での協力を求めているが、北朝鮮をアメリカとの緩衝国と位置付ける中国に、もとより金正恩体制を打倒し、朝鮮半島を無用な混乱に陥れる意思など毛頭ない。

米中接近によって梯子を外されるのは他でもない、我が国日本だ。政権発足当初こそ、対中強硬外交を主張していたトランプ政権であるが、ロシアと仲違いすると今度は対中宥和策に転じ、為替や安保問題での譲歩を迫られるだろう。またその一方で、相対的に戦略的価値が低下した我が国に対しては、態度を硬化させ、先日始まった「日米経済対話」などの場で、TPP以上の露骨な市場開放圧力を加えてくる可能性が高い。

想えば現下の国際情勢は、ニクソン政権時の東アジア情勢と似ている。ニクソンはベトナム撤兵を進めるなかで、ソ連との対立を深める中国に接近する一方で、我が国に対しては露骨な軽視政策に転じ、日米繊維交渉等での攻勢を強めた。こうしたなかで、当時の佐藤政権は、秘密裏に核武装の可能性を検討し、佐藤政権の通産大臣で、佐藤首相の跡を継いだ田中角栄は、独自のウラン調達ルートを構築して対米自立の道を模索した。しかし、角栄の挫折は対米従属派の勝利であり、八十年代に復活したアメリカに対して我が国は底無しの従属構造に陥ったのである。言うまでもなく、北朝鮮の核・ミサイル開発は我が国の安全保障に対する重大な脅威であるが、アメリカによる如何なる妨害によっても北朝鮮の核開発を止める事は出来ない。仮にアメリカの北朝鮮侵攻によって金正恩体制が崩壊したとしても、その後当然に予想される核の拡散や難民の流出、中共勢力の浸潤といった朝鮮情勢の混乱はアメリカにとっても我が国にとっても決して望ましいものではない。

トランプ政権の対北強硬政策は、トランプが、金正恩による兄正男の暗殺の残酷さに憤激したのがきっかけとされ、シリア空爆を決めたのも、愛娘のイバンカがアサド政権によるサリン攻撃の残虐性をトランプに訴えたのが発端とされるが、トランプは上述した様なアメリカ外交の失敗が、アメリカの戦略的な利益と、「人道」という道義的な価値の混同によるものであることを学習すべきだ。

確かに金正恩は残酷な独裁者であるに違いないが、国民の経済利益を犠牲にしてでも核開発を優先し、国家独立の根基を確立する事は、長期的には合理的な選択であり狂気の沙汰とは言えない。現在の中国も大躍進政策の最中、膨大な自国民の餓死者を出しながらも核開発に邁進し、米ソに対する国家独立の基を確立した後に経済の改革開放に舵を切った事で大国の地位を勝ち取った。金正男が代弁した北朝鮮の改革開放は、国家の権力基盤が脆弱な状態で実施すれば体制崩壊に繋がりかねない。

それに、曲がりなりにも現在の北朝鮮は、朝鮮の宿啊ともいえる事大主義からの脱却と自主強盛大国への道を目指している。これに対して、我が国は相変わらずの対米従属と空虚な人道主義による北朝鮮批判を続けているが、むしろ我が国はこの度の朝鮮危機を奇貨として、自主独立の気概を振起し、普遍的「人道」を弄ぶアメリカの干渉を排して、核廃絶という絵空事ではなく、自も核武装して核の均衡と相互抑止による現実的な平和構築への一歩を踏み出す秋ではないか。